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「裸の背徳者」(黒岩重吾) [本]

官能小説のような題名だが、戦記小説である。

黒岩重吾が終戦時に満州・ソ連の国境で兵役に服していたことは知られている。ソ連の侵攻と共に脱走し、翌年日本に戻っている。満州で脱走してから日本へ戻るまでのことは余り語っていない。

この「裸の背徳者」が満州での脱走体験を描いた唯一の小説である。

この小説がすべて黒岩重吾の実際の体験に基づいたものかは断言できないが、それに近いものと推測する。

この小説によれば、黒岩が配属されたのは、満州・ソ連国境の虎頭である。虎頭は満州・ソ連の東部国境にあり、ウスリー川を挟んで対岸がソ連領だった。ウラジオストクの北方500キロぐらいの地点である。ここに関東軍は大要塞を築いたが、終戦間際には兵士・装備とも南方戦線に送られ、戦闘能力はないに等しかった。

この虎頭の要塞から10里の地点にソ連軍の侵攻に備える塹壕を掘るのが、この小説の主人公黒木の役目であった。それがソ連軍の侵攻で、虎頭の要塞は壊滅したと判断し、本隊に戻らず脱走する。

ここから林口まで逃げることに成功する。約300キロを逃げた。林口で避難列車に乗ることができ、牡丹江まで行く。

この小説では、ここで主人公は脱走兵であることがばれて、憲兵に射殺される。

実際の黒岩は、ここで列車を乗り継ぎ、ハルピンまで行くことができただろうことは、他の小説(「背徳のメス」)から推測できる。

ハルピンから先のことはわからない。日本に戻ったのは正規の引揚船ではなく、密航船によったのである。密航船が出発するのは釜山である。ハルピンから釜山までのルートが不明。

密航船に乗るには多額の謝礼が必要だが、その金をどう調達したかも不明。

これではあからさまに体験を書くことができなかったことは理解できる。
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