五反田で

友人から電話があり、一緒に五反田で食事することになった。前回会ったときに五反田の「ホット・スプーン」のカレーがおいしいと言ったことを覚えていたのだ。

「どうして急に食べようなんて気になったのかな。」
「いやぁ、実は他の所へ行こうと思っていた。鶯谷なんだけど。あいにく、今日は予約で一杯で、夜１０時でなきゃダメだと言うんだ。」
「なんの話をしているんだ」
「風俗だよ。」

「盆前だから混みますよ。８月の上旬は風俗は稼ぎ時だろう。他の店はどうだったんだ。」
「いや、店は決めている。他に店は行く気がしない。」
「段々と億劫になるな。ついでに相方も決めておくといい。」

「なぜ五反田の店を知っているのか。」
「前立腺の医者が五反田だから。過敏性の尿漏れに悩んでね。それで五反田の医者に通いだした。本を書いている先生でね。もう年だけど、治ったから信用している。今でも３月おきに検査に通っている。半年に１回でいいとは思うけど。」
「前立腺肥大だったな」
「そう。もう手術したけど。」

「よく手術する気になったな。その勇気には感服する。女は駄目になるからな。」
「まったくダメというわけではないが、面白くないことは間違いない。うしろに射精するのだから、気が抜けてしまう。そのうち興味も段々と薄くなってくる。

肥大手術をしたのは、体力が弱ってきたから、元気なうちに外国に旅行したかったからだ。ヨーロッパへ行く飛行機の中で排尿ができなくなったら大変だ。前立腺肥大だと長時間の旅行はできない。それで思い切って手術したというわけ。旅行か、女か、どちらを取るかの問題だ。旅行を取った訳だ。

「ヨーロッパにも行ったな。世界一周クルーズもしたな。予定通りか。」
「ま、その通り。クルーズ旅行で旅行もピークアウトしたと思っている。最近旅行しても新鮮さがないし、好奇心も湧かない。次のテーマを見つけるべきなのだろうけれど、なかなか思いつかない。気まぐれ人間だから、関心が移動する。それは自分でも分かっている。

来年は株が面白いと思っている。一度やめてしまったけど、来年はまた株かな。下準備はしつつある。目下進行形。」

「株は危なくないか」
「それは博打だから。紙切れになってもいい金額しかしないよ。だけど、刺激になるだろう。」

「俺は女だ。」
「盆がすぎれば、ヒマになる。ま、我慢することだな。奥さんとでも致したらどうですか？」
「バカいうな。」

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