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映画「野良犬」(黒澤明) [映画]

私の場合、黒澤明の映画で見たいと思う作品は「酔いどれ天使」と「野良犬」だ。「七人の侍」や「生きる」ではない。

今回、この映画をあらためて見て感じたことは、やはりこれは一級品の映画であり、黒澤明は天才だということ。

「野良犬」の製作は1949年。刑事ものである。この映画にジュールス・ダッシンの「裸の町」の影響を見るのはたやすい。

セミ・ドキュメンタリー風の描き方で、製作当時の東京を知るには格好の作品だ。

特に、拳銃を盗まれた三船が復員兵姿でピストル密売人に接触すべく東京の町中を彷徨する。10分ほどの場面だが、これがこの映画の”へそ”であることは、小林信彦が「黒澤明という時代」に書いている。それは正しいが、この映画では始まりの場面に過ぎないことも事実だ。

私は黒澤映画の良き観客とは言えない。なぜか。不自然な登場人物が気になって、引っかかってしまうからだ。この映画でいえば、コルト(ピストル)を盗まれた三船敏郎の刑事の自責感がオーバーで、気になってならない。

この映画を象徴するのは夏の暑さだろう。夏の暑さを映画で表現するのは難しい。この映画はそれに成功している。

タイトルのバックは、野良犬の頭で、ハァハァと舌を出してしている。これで暑さがわかる。

もっとも生々しく暑さを感じさせる場面は、レビューの踊り子たちが踊りを終わったあと、楽屋に戻り、体中汗だらけのままへたり込んでしまうところだ。汗まみれになった踊り子の顔や肢体を写しだしていく。

細かく書くときりがない。

ラストの場面は、こうである。駅で犯人を見つけた三船の刑事が犯人の木村功を追いかけていく。雑木林の中で追いつくが、三船は銃を持っていないことに気づく。遠くの住宅からピアノの音が聞こえる。(この曲名がわからない。)木村功は銃を撃つが、三船にかすり傷を負わせる程度だ。

ピアノを弾いていた女性は、何の音かと窓辺に行って外を見る。遠くの雑木林の中の睨み合っている二人を見るが、無関心にピアノに戻ってしまう。

(ここは「裸の町」の模倣が明らか。「裸の町」では逃げる犯人が鉄塔?だったかの階段を上り、下を見ると、テニスに興じている人たちの姿が見える。必死に逃げる犯人とテニスを楽しむ人たちの対比が印象的で、映画史に残る名場面とされている。)

木村と三船は睨み合っているが、恐怖の余り、木村功は次の2発の弾を外してしまう。銃にはもう弾がない。

木村は逃げる。三船は追いかける。雨だまりの泥の中で格闘する描写は黒澤らしい。木村は再度逃げる。と、そこは花の咲きほこる草むらだ。泥と花の対比が素晴らしい。ここで三船は木村に手錠をかける。

近くの道を子供たちが「蝶々」の歌を歌いながら通り過ぎる。木村の視点で、花が下からの俯瞰で写しだされ、蝶々がとまり、飛んでいく。

これを見て、木村功の犯人の号泣が始まる。この号泣はすさまじい。一度見たら忘れられるものではない。

ところで、この花だが、実際に花のあった草むらでロケしたわけではないらしい。小林信彦の本によれば、黒澤監督は喜々として草むらに花を植えていたという。泥と花の対比の効果を計算したわけだ。

2012/08/25付記

最近戦後の映画を見て気になることは、占領されていたという形跡が消されていることだ。

占領下の日本の警察と米軍の憲兵隊(MP)の関係がどうであったかは知らないが、強盗殺人事件がらみなら、MPが関与したと思う。

この映画でMPらしき者の姿が見えるのは、住宅地で殺人事件があり、現場に向かうジープに4人が乗っているのが小さく映るが、これは多分MPだと思う。ただ、画面はぼかしている。
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