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「どぼらや人生」(黒岩重吾) [本]

1963年に出版された。50年前である。自伝的エッセイである。

黒岩重吾が人気作家になる以前を描いている。戦後、株屋に勤めて放蕩生活を送ったこと。ゲテモノ食いが高じて、腐った肉を食べて小児麻痺となり、4年間の入院生活を送ったこと。

入院生活の間に株が暴落し多額の借財を背負った結果、釜が崎のドヤ街にすんだこと。その間、トランプ占いを生活の資としていたこと。

やがて、キャバレーの宣伝部員となったこと。


この間に観察した社会の底辺、裏側に生きる人たちのスケッチである。


この本は、昔、かなり熱中して読んだものである。今回読み返してみたが、面白いことは面白いが、熱中するほどのこともない。

始めてこの本を読んだのは20代で、底辺に生きる人間や風俗界に生きる男女の生態が珍しかったのだろうか。

自分の当時の生活を考えてみれば、まったくド真面目というしかない。生まれも育ちの都市のサラリーマン家庭そのものだった。キャバレーに勤める女の生態など知る由もなかった。

ましてやドヤ街の生活など。

「どぼらや人生」に書かれた内容に大いに好奇心をそそられたのだろうと思う。

それ以後、私も、色々経験した。この本のインパクトが薄くなったのはそのためだろう。

黒岩重吾の生涯で気になるのは、終戦時のことである。ソ連・満州国境の軍隊に在籍していた。ソ連軍と戦い、潰走したわけだが、その後、どうやって朝鮮半島まで逃げ切ったものかが、わからない。

戦時中、戦後の混乱については、語れる人と沈黙を守っている人がいる。黒岩重吾は沈黙した組であるらしい。井上靖も兵役中のことについては語っていない。

満州時代を描いた小説としては「北満病棟記」と「裸の背徳者」があるようだが、読んだことはない。

語れないことが多かったのだろうと、推測するしかない。きれい事では生き延びられなかったはずだ。

黒岩重吾は戦後、放蕩三昧の生活を送ったことはこの本にも書いているが、兵役中の修羅場体験が影響しているのだろう。


印象に残る文章は数多くあるが、最後の方に書かれたチェック箇所だけを略記する。


ー愛情なんて…彼女たちは軽蔑したようにいったものだ。しかし、昔知っていた女と出会うことがあるが、そのたびに、これがあの女なのかと、信じられない気がする。ほとんど別人のようになっている。男の愛情に飢える平凡な昔ながらの女に変わっているのだ。

 年と共に若さのエネルギーによって隠されていた女性の本能が頭をもたげてくる。年と共に家庭にウエイトを置く事実を絶えず見せつけられる。



安倍首相は「Wの風」とかで、女性登用を促進するようだが、もろもろの事情を考えれば、日本の場合はやはり難しい。




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